最近では、インターネットの普及により、年齢問わず性に関する情報を誰でも簡単に入手できる時代になりました。また、テレビや映画、マンガ、ゲームなどでの直接的な性の表現も多くなってきています。昔に比べて現在は、それらと触れる機会も増えてきています。
性に関する情報はどこから得るの?
家庭ではどのように話しているの?
●家庭で性教育を行っていますか?
性に関する情報に触れる機会が増えているのと同じように、家庭でも性の話題が上がることは多いでしょうか? それについては、今も昔もそんなに変わらないのではないのではないかと思います。2007年のデータになりますが、家庭で性教育を行っていると答えた人は回答者全体の23%ほどでした。日本では学校での性教育の時間もあまり長くないとされており、家庭でも学校でも十分な性教育を行えていないという課題があります。
こんなに違う!? 世界の性教育
州によって異なる教育内容ながら
さまざまな教育手法で正しく伝える
アメリカでは大きく3つのパターンにわかれます。
- 「総合的性教育(セクシュアリティ教育)」…性を生物学・心理学・社会学など多角的にとらえて1人の責任ある人間としていかに行動するかを教え、避妊・妊娠中絶・同性愛は否定しません。
- 「禁欲教育」…結婚まで性交せずに禁欲生活を送ることがいかに重要かを教える教育です。
- 「総合的性教育と禁欲教育をプラスしたもの」はどちらか一方に比重が置かれる場合があります。
ある州の例ですが、43分の授業が年に45回組まれ、外部から講師を招くケースもあります。ゲーム的な作業や映画を見るなど、多くの手法が用いられます。さらに、性暴力や性的虐待を受けた場合に警察での事情聴取や法廷で証言できるように、幼稚園から高校までの間に(障がい者教育においても)性に対する正しい用語を年齢に応じて学習させています。
また、アメリカでは高校生になると、部活動の一環として性的マイノリティの方と異性愛者が定例会やイベントを計画して公共の場で活動しています。
世界一実践的といわれる教育内容で
若いうちから十分な知識を身につける
オランダでは、性に関する情報がテレビやインターネットから簡単に得ることができるため、思春期を待っていては遅いとの考えから、小学1年の5歳から性教育を実施する学校があります。そのため、思春期を迎える前の時期から、性は食事や睡眠と同じように日常生活の一部であり、ごく自然で当たり前のことだと教えられます。小学校によっては高学年でバナナを使って実際に避妊具を被せる実習を行うこともあるようです。
13歳以降になると、性感染症の予防や性行為そのものについて大切なこと、性交渉から妊娠・出産を含む過程、避妊の方法、同性愛など性の多様性を学びます。オランダの多くの親は10代での性行為を容認しており、ごく自然に家族団らんの場で性の話が出ることがあるそうです。
このように、オランダの若者は性に関する十分な知識を身につけているため、10代の出産率と中絶率が世界の中でも極めて低くなっています。
人権の視点にも立った内容で構成
性の多様性に踏み込むことが課題に
性産業が盛んで、1990年代にHIV感染者が爆発的に増えたタイでは、2006年以降、保健体育の一部として性教育が行われています。性の発達や対人関係、性行動など6つの柱からなり、生物学的な観点からだけでなく、人権の視点にも立つ内容で構成されています。
教える側の教師たちに保守的な考えが根強いことや、若者の性の現状と性教育の内容にギャップがあり、なかなか関心を持ってもらえないという現状があるようです。
また、タイでは“女性のような化粧や振る舞いをする男性”の存在が容認されているものの、性の多様性にまで踏み込んだ内容にはなっていないようです。
時間的にも内容的にも不十分
最低限の知識を扱うだけで終わってしまう
以前は初潮についての指導を女子のみ集めて行っていましたが、現在は初潮の指導も精通の指導も、からだの働きの変化とともに男女一緒に行っている学校が増えてきています。一方で、男女一緒に行う指導とは別に女子だけを対象にした初潮指導の時間を設けている小学校もあります。
また、中学校での性教育に費やされる時間は年間で平均3時間ほど。3年間合わせても10時間にも満たず、からだの変化や妊娠・生命の誕生、性感染症など最低限の知識を扱うだけで終わってしまう場合が多いでしょう。また、小・中学校では性交や避妊そのものを取り扱わないという学習指導要領の制約もあります。
このように、日本でも小中学生の間にある程度の指導は行われていますが、時間的にも内容的にも十分とはいえません。アメリカやオランダの例をみてもわかるように、日本は世界を基準にした場合、性教育が遅れている傾向にあります。先進国の例をみても、性教育に早すぎるということはありません。外部から誤った知識を得てしまうよりも、おうちの方が正しい知識をきちんと教えてあげることが大切です。
LGBTについて
性的マイノリティであるLGBT[レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル(両性愛者)、トランスジェンダー(性同一性障害)]の人たちは、最近ではテレビで活躍しているタレントさんの中にも多くいて、身近に感じられる存在になっています。ただし、実社会では保障が十分ではなかったり、根強い偏見があることも事実です。幼いころから性(恋愛)の対象が異性ではない、自分の精神と実際の性が異なる、ということで悩んでいる人は少なくありません。あらゆる性の多様性を受け入れられる許容性が、今後の考え方になっていくかもしれません。
[参考文献]『こんなに違う!世界の性教育』(メディアファクトリー、2011年)
おうちの方へのポイント!
お子さまは知らないうちに性に関する情報に触れています。誤った情報も多いので、正しい知識を教えることが大切です。
家庭では性について話すことが少なく、学校でも性教育に十分な時間を確保していないため、家庭での性教育が重要になります。
性教育の内容や時期は世界でも差がありますが、日本の性教育は遅れがちで十分とは言えません。性教育に早過ぎることはないので、正しい知識を。
監修:
東京都済生会中央病院 産婦人科 西山紘子先生
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