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女の子の10~14歳は第二次性徴にあたり、からだとこころが大きく成長する時期で驚くほどの変化が現れます。初潮を迎えるのも、その変化の一つです。月経について正しい知識を持ち、どんな変化があるのかを知っておくことで指導上の参考にすることができます。また、女の子と男の子では成長するタイミングも速度もまったく異なります。女の子と男の子の違いを認識しながら、成長段階に合わせた指導が必要となります。

月経と月経周期

思春期になると、脳内にある視床下部から卵胞刺激ホルモンを出すよう脳下垂体に命令が出され、脳下垂体から卵胞刺激ホルモンが出されます。この卵胞刺激ホルモンが卵巣に働きかけて卵巣の中にある原始細胞が卵子を含んだ成熟卵胞となります。このとき、卵胞からは卵胞ホルモン(エストロゲン)が分泌されます。

その後、脳下垂体は黄体化ホルモンを分泌し、卵巣を刺激します。これにより卵胞から卵子が排出される排卵が起こります。排卵した卵胞からは卵胞ホルモンと黄体ホルモン(プロゲステロン)が分泌され、これらホルモンの働きで子宮内膜が厚くなり、受精卵が着床しやすい状態になります。このとき、卵子が受精しなければ黄体ホルモンが減少し、子宮内膜がはがれ落ちて膣から排出されます。これが月経です。

月経が始まると再び脳下垂体から卵胞刺激ホルモンが分泌され、同じサイクル(月経周期)がくり返されます。

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思春期のからだの変化と性差

女の子は9歳から、男の子は11歳ごろから第二次性徴が始まります。女の子は女性らしい、男の子は男性らしい体へと変わっていきます。

■スキャモンの発育型グラフ 骨やからだの仕組みがある程度できてきたところで生殖系の発達が始まります。

★女の子の体の変化
・胸がふくらみ始める
・わき毛や陰毛が生え始める
・骨盤が大きくなりお尻が丸くなる
・内性器が発達して初潮を迎える
★男の子の体の変化
・筋肉や骨格が発達してがっしりする
・わき毛や陰毛が生え始める
・声変りをしてのどぼとけが大きくなる
・性器が発達して精通が起こる

第二次性徴を迎えると、女の子と男の子の性差がはっきりしてきます。身長や体重はもちろん、筋肉量は男の子の方が多く、それまで同じメニューでこなしていたトレーニングも同じようにできなくなってきます。また、激しい運動の継続や極端な体重制限は、女の子の正常な発育・発達を妨げる可能性が高いと言われています。
そのため成長期の女の子を指導する場合には、女の子のからだの変化や成長、月経のことを正しく理解し、それに合わせてトレーニング内容を調整することが必要になります。
たくさんの生徒を指導する場合、一人ひとりのからだの状態を把握することは難しいことかもしれませんが、少しでも生徒の状態に気を配り、スポーツに取り組めるように配慮することが選手の育成に大切になってきます。

思春期のこころの変化

こころの面では、それまで依存していた大人から心理的に自立しようとする動きが出てきます。理由もわからず反発したくなり、モヤモヤ・イライラすることもあります。大人に反抗したり甘えたりを繰り返して、少しずつこころが成長していくのです。

さらに、女の子は月経が始まると、月経周期に合わせてこころの変化が大きくなります。月経前にはちょっとしたことでイライラしたり、からだのだるさを感じることで少し憂鬱になったり。月経中はいつものようにパフォーマンスできないことで、落ち込んだりすることもあるでしょう。これは分泌される女性ホルモンに影響されるため、女の子本人もなぜこういう気持ちになるのか自分でもわかっていないケースがほとんどです。これらは人それぞれで個人差がありますので、目の前にいる生徒の個性や性格を考慮した対応が必要となります。

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激しい運動を繰り返すことによる利用可能エネルギー不足やストレス、体重・体脂肪の減少、ホルモン分泌量の減少が原因と考えられる無月経によって骨量が減少し、疲労骨折の危険性が高まります。11~14歳は、本来であれば骨密度の年間増加率がもっとも大きい期間です。その後のアスリート人生を左右する大切な時期ですので、しっかりした管理が必要となります。

アスリートに多い無月経と疲労骨折

■10代の女性アスリート239名における疲労骨折の有無と月経状態

  • 正常に月経が来ている人のうち、約1割の割合で疲労骨折が起こっています。
  • 無月経状態の人のうち、約4割が疲労骨折しています。正常に月経が来ている人に比べるとリスクは約4倍ということになります。

「成長期女性アスリート 指導者のためのハンドブック」2014年3月
独立行政法人日本スポーツ振興センター
国立スポーツ科学センター(JISS)

骨粗しょう症とは、骨量が減少して骨がもろくなり、骨折しやすくなった状態をいいます。一般には閉経後骨粗しょう症や老人性骨粗しょう症などが知られていますが、若い女性であっても、無月経により骨代謝にも関係する卵胞ホルモン(エストロゲン)が低い状態になることで骨量が減少し、疲労骨折しやすくなってしまいます。

通常であれば思春期の骨形成時に十分にカルシウムを摂取し、適度な運動と順調な月経があれば高い最大骨量を得られると考えられています。そのため、この時期に月経異常などで骨量が低下することは、将来的な骨の健康に影響を及ぼしかねません。ある程度の正常な月経を維持すること、高い骨量・骨密度を維持することは女性アスリートの将来に対して重要ですので、トレーニング強度や頻度などの調整、体重コントロールなどに留意して指導していく必要があります。

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生徒のからだを守り、育成をしていくうえで指導者ならではの視点を持つことの大事さをサッカー代表の帯同経験がある国立スポーツ科学センター(JISS)土肥美智子医師にお話を聞きました。

土肥美智子 医師からのメッセージ

プロフィール

国立スポーツ科学センター メディカルセンター スポーツクリニック 副主任研究員
 
千葉大学医学部卒業、医学博士。2年間のフランス留学、東京慈恵医科大学放射線科などを経て現在に至る。北京オリンピック、 ロンドンオリンピック、リオデジャネイロオリンピックの選手団帯同メディカルスタッフとしても活躍。

試合や大会への対策は日常生活から

女性のからだには女性ホルモンの影響を受け、月経を起点に約1ヶ月のサイクルを繰り返す月経周期があります。月経周期を大きく4つに分けた月経期、卵胞期、排卵期、黄体期のうち、黄体期(月経前の約1週間)や月経期(月経中の約1週間)にはさまざまな不調を感じることがあります。

こうした月経に伴うからだの不調は、内容や程度に大きな個人差があるもの。さらに、同じ生徒でも体調によって症状の重さ、スポーツ中のパフォーマンスに与える影響が変わってくることがあります。

たとえば、集中力を妨げる一因になる月経痛やからだのむくみ。これらの症状の重さは、生徒のからだのコンディションによって変化するのです。

普段からコンディションを整えておくために重要なのは、規則正しい日常生活を送ること。きちんとした食生活、睡眠、休養を心がけることの大切さを生徒に伝えてください。

強い月経痛が起こる場合には

10代の生徒はまだ子宮の頸管が細く、血液やはがれた子宮内膜を押し出すために子宮収縮が比較的強いことから、月経痛を訴えるケースがあります。痛みがひどい場合には我慢せず、痛み止め薬の使用を選択肢として検討しましょう。ただし、生徒に薬を与える際は、体型に応じた適切な分量にすることが大切です。婦人科の医師に相談しながら導入するとよいでしょう。

市販されている痛み止め薬を飲む場合は、痛みが出る前に飲むのがいいでしょう。痛み止めは痛みの原因物質産生の途中をブロックする働きをもっていますので、痛みの原因物質が産生される前、出血が少しあったら飲み始めましょう。そのため、月経周期のなかで強い月経痛が起こる時期を日頃から把握して、適切なタイミングで服用することを心がけてください。

具体的な取り組みの可能性

複数の生徒を同時に指導する際、一人一人の体調を細かく管理するのは現実的に難しい面があります。一方で、指導者ならではの長期的で広い視野を、生徒やおうちの方に向けたアドバイスに活かせるという強みもあります。

10代は、生徒が大人のからだに変化していく大切な時期。将来もスポーツを続ける生徒なら、今の成果を求めるのと同時に、成人後に目指したい選手像を見すえながら指導内容を考えたいところです。

生徒の将来を考える上で、生徒自身が正しい知識を身につけることは大切なことですから、月経周期とコンディションの変化や、不調が出た際にとるべき対応をしっかり指導しましょう。

生徒に対して直接指導することが難しい場合は、おうちの方や養護教諭の力を借りて、一緒に見守っていくことも選択肢のひとつです。

おうちの方に協力をお願いするに当たっては、年度始めのガイダンスなどを利用して全体に向けて伝えることで、月経への理解を促す方法があります。生徒の様子で気を付けたいポイントや一緒に取り組んであげてほしいこと、必要に応じて医師に相談することの大切さなどをお話できるといいですね。

成長期のからだを第一に考える指導方針が伝われば、おうちの方の安心にもつながるでしょう。

スポーツを続けるうえで自分のからだを知り、向き合うことの大切さを、2回のオリンピックにも出場し、トップアスリートとして活躍した元競泳選手の伊藤華英さんにお話を聞きました。

伊藤華英さんからのメッセージ

プロフィール

元競泳選手。16歳の日本代表入りから2012年10月の現役引退まで、北京、ロンドンと2回のオリンピックに出場したほか、世界選手権やアジア大会で数々のメダルを獲得。現役引退後は、ピラティス講師の資格を取得し、水泳とピラティスのすばらしさを伝えている。

練習や試合が月経と重なったとき

私は小さい頃から水泳を始めて、現役を引退するまでは本当に水泳漬けの毎日を送っていました。

そんな中で初経を迎えましたが、周りの子がすでに初経を迎えていたので自分はいつかな?と思っていたし、母から“月経とはどういうものか”、“どんなことが起こるのか”を事前に教えてもらっていたこともあって、焦ったり戸惑ったりすることはありませんでした。

競泳はプールに入るので、練習や試合が月経と重なったときはタンポンを使用しますが、経血量が多い日でも、こまめに交換をしながら練習をしていました。休んだ分だけタイムが伸びなくなると思いましたし、大会と月経が重なる可能性を考えると、練習を休むという選択肢は全く頭の中になかったです。

月経痛で症状が重くつらい場合は無理をする必要はありませんが、生理用品を正しく使うことでスポーツはいつも通りに楽しめる、ということを伝えたいですね。

原因不明の不調に悩まされた

私の場合、最初は自分でもあまり意識していなかったのですが、ある一定の時期になると自分自身だけでなくコーチも不思議に思うくらい、こころやからだに不調が出てパフォーマンスが不安定になりました。

体重が急に2~3kg増えてしまったり、体全体が脱力したような感覚で腹筋に力が入らず、自分本来の泳ぎができなかったり。それに輪をかけてイライラして必要以上に落ち込むといった状態で、当時の私はそれを「自分が精神的に弱いからだ」 と、さらに自分を追い詰めていたのかもしれません。月経にかかわる不調かもしれないとなんとなくは思っていましたが、しばらく原因はわからないままでした。

その後、高校生のときにナショナルチームに召集され、帯同ドクターのすすめで基礎体温や月経周期を記録するようになり、不調が出る時期を合わせてチェックするようになりました。そして、20歳を過ぎるくらいの頃に、ようやくその不調の原因がPMS(月経前症候群)であることがわかったのです。

頭痛やむくみなど、症状は少しずつ変わってきているものの不調になることに変わりはありませんでしたが、PMSとわかってからは月経周期とコンディションに合わせた対処をしていくようになりました。また、同じ頃にメンタルトレーニングを受けるようになり、月経前の不安定な気持ちを徐々にコントロールできるようになっていきました。

自分のからだを知ることの大切さ

海外では月経周期をチームで管理するということも聞いたことがありますが、基本的に自分のからだのことは自分がいちばんよくわかるもの。自分のからだのことはしっかり把握する必要があります。現役時代、「自分のからだに鈍感な人が多い」と感じていましたし、自分自身、もっと早くPMSのことを知ることができていればよかったと思うこともあります。もし10代のときに知っていればいろいろと準備もできましたし、早めに対処できたのに、と。

月経の話題は話しにくい雰囲気があるので、オープンに話せるような環境になるのがいちばんですが、不調の原因に気づいていないときや悩んでいるとき、アドバイスや相談できる人の存在も大切。私の場合は帯同のドクターが産婦人科医だったので、いつでも相談できる恵まれた環境にいましたが、おうちの方やコーチなど周りのサポートがあるとより助けになります。男性のコーチですと月経についてなかなか知る機会が少ないと思いますが、思春期の女の子には、こころやからだにさまざまな変化が起こりうることをまずは知っていただきたいと思います。

スポーツを頑張っている女の子には、スポーツをするからこそ、自分のからだにもっと敏感になってほしいですね。月経周期を記録・管理することで自分のからだの状態を把握できますし、それに応じた対処をすることができますから。そのためにも、自分のからだや月経をはじめ、月経周期の体調の変化について、もっと学べる機会が増えていくことを願っています。

はじめてからだナビ らぶ♥スポ部